2017年10月5日木曜日

ベポタスチン

 2017年9月25日付けで田辺三菱製薬から「アレルギー性疾患治療剤「タリオン®」に関する特許侵害行為差止めに関する仮処分命令の申立てについて」。というプレスリリースがされましたので、今回はベポタスチンについて分析します。


ベポタスチンの製品情報

有効成分
一般名:ベポタスチンベシル酸塩
効能・効果/用法・用量
<成人>
アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う瘙痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚瘙痒症)
<小児>
アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚瘙痒症)に伴う瘙痒
剤形・規格
タリオン錠5mg/タリオン錠10mg
タリオンOD錠5mg/タリオンOD錠10mg
製造販売元
田辺三菱製薬(提携/宇部興産)



田辺三菱製のプレスリリース


 田辺三菱製のプレスリリースによれば、
“アレルギー性疾患治療剤「タリオン®」について、同製品の後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品株式会社、シオノケミカル株式会社および大興製薬株式会社に対して、当社が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを2017年9月15日付で東京地方裁判所および大阪地方裁判所に行いました”
とのことです。


対象特許と対象製品


基本特許

 
 
 特許1821360は、ベポタスチンの物質特許ですが、年金不納により既に抹消されていました。特許4704362はS体ベポタスチンベシル酸塩の物質特許特許4562229はS体ベポタスチンベシル酸塩の医薬用途特許で、2017年12月19日まで存続しています。この2件の特許が対象特許と考えられます。



対象製品


 現在、次の製品が承認されています。
承認年月日製品名会社名
8/15/2012
ベポタスチンベシル酸塩錠5mg「トーワ」東和薬品
ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「トーワ」東和薬品
ベポタスチンベシル酸塩OD錠5mg「トーワ」東和薬品
ベポタスチンベシル酸塩OD錠10mg「トーワ」東和薬品
ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「JG」日本ジェネリック
ベポタスチンベシル酸塩錠5mg「JG」日本ジェネリック
ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「SN」シオノケミカル
ベポタスチンベシル酸塩錠5mg「SN」シオノケミカル
ベポタスチンベシル酸塩錠5mg「DK」大興製薬
ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「DK」大興製薬
8/15/2016
ベポタスチンベシル酸塩OD錠10mg「タナベ」田辺製薬販売
ベポタスチンベシル酸塩OD錠5mg「タナベ」田辺製薬販売
ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「タナベ」田辺製薬販売
ベポタスチンベシル酸塩錠5mg「タナベ」田辺製薬販売

プレスリリースによれば、東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して仮処分の申立がされたとのことなので、これら3社の8製品が対象製品と考えられます。




なぜジェネリックが承認された?


ジェネリックの承認と特許の関係


 調べた限り、ジェネリックの承認と特許の関係に言及しているのは、医政経発第0605001号通知だと思われます。
 医政経発第0605001号 「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る
医薬品特許の取扱いについて」には、“先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと。”、“先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。”と記載されています。
 つまり、この医政経発第0605001号 は、
1.先発品有効成分を保護する物質特許が有効に存続している場合、
2.効能・効果、用法・用量の全てを保護する用途特許が有効に存続している場合、
ジェネリックは承認されないことを示しています。



なぜジェネリックは承認された?


 ベポタスチンの場合、有効成分であるS体ベポタスチンベシル酸塩を保護する物質特許(特許4704362)と効能・効果、用法・用量の全てを保護するS体ベポタスチンベシル酸塩の医薬用途特許(特許4562229)が、2017年12月19日まで存続しています。そのため、医政経発第0605001号で言うところの、“先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合”と“特許が存在する効能・効果等については承認しない”に該当し、ジェネリックは承認されないはずです。
 しかし、2012年8月にジェネリックは承認されてしまいました。PMDAや厚生労働省がこの2件の特許を見落としていたのかもしれませんし、他の理由があるのかもしれません。残念ながら、理由は分かりません。可能性として、当時、特許4704362と特許4562229に対する以下の無効審判が継続中だったことが一つの要因かもしれません。

登録番号無効審判番号無効審判請求人審決
特許4704362
無効2011-800098遼東化学工業無効でない(確定)
無効2014-800026シオノケミカル無効でない(確定)
特許4562229
無効2011-800097遼東化学工業無効でない(確定)
無効2014-800025シオノケミカル無効でない(確定)

※無効審判とジェネリックの承認との関連については、別途、事例をベースにした分析をしてみたいと思います。



係争の行方


薬価収載日と特許満了日


 特許4704362と特許4562229の満了日は2017年12月19日なので、特許満了日前に薬価収載されると思われます。
 一方、医政発0210第1号通知 「医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて」には、“薬価基準収載日から3ヶ月以内の供給開始及びその後の継続した安定供給に支障がないことが確認された場合に限り、予め次の事項を報告品目収載希望者、新キット収載希望者又は後発医薬品収載希望者に対し通知したうえで、薬価基準に収載する”と記載されています。
 そのため、東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬がベポタスチンのジェネリックを12月に薬価収載しても、3月以内に供給を開始すればいいので、特許満了日である2017年12月19日よりも後に製造や販売を開始することができます。


特許権の効力が及ぶ範囲


 特許法では、“物の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為”が実施行為に該当します。
 そのため、特許4704362と特許4562229の満了日である2017年12月19日以前に、原料を生産/輸入する、製剤を製造/輸入する、医療機関に販促活動をする等の行為には、特許権の効力が及びます
 一方、特許が満了した12月20日以降に、東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬が前述の行為を行っても、それには特許権の効力は及びません
 東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬は、ベポタスチンのジェネリックを12月に薬価収載しても、特許満了日以前に実施行為をしないことが十分に想定されます。このような状況で裁判所が差止の仮処分命令申立てを認めるかどうかが注目されます。




最後に


 特許4704362と特許4562229の内容を精査し、無効審判を結果と同様に「特許は有効」と判断して、2018年2月承認・6月薬価収載を目指してジェネリックの開発を行っていた会社もあると思います。東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬の薬価収載を認めてしまえば、2018年2月承認・6月薬価収載を目指していた会社との間で不公平が生じるのはないでしょうか。
 また、ベポタスチンのジェネリックが承認されたことは、医政経発第0605001号の内容と整合していませんし、承認された経緯もブラックボックスです。ジェネリックを普及させる上で、ジェネリックの承認と特許との関係を明確にすることが必要だと思います。



0 件のコメント:

コメントを投稿