2017年10月29日日曜日

ベポタスチン~続報~

 “ベポタスチン”で取り上げたベポタスチンに係る特許侵害差止仮処分命令申立事件に続報があったので、ここで紹介したいと思います。


田辺三菱製のプレスリリース


 2017年10月26日付けで田辺三菱製薬から発表されたプレスリリース「アレルギー性疾患治療剤「タリオン®」に関する特許侵害行為差止めに関する仮処分命令申立ての取下げについて」によると、
“アレルギー性疾患治療剤「タリオン®」について、後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して、田辺三菱製薬が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを、2017年9月15日付で東京地方裁判所および大阪地方裁判所にそれぞれ行っておりましたが、今般、各社との協議の結果、円満解決に至りましたので、当社は10月25日付で両地方裁判所に本仮処分命令の申立ての取下げを行いました”
とのことです。

 プレスリリースでは“円満解決”の内容が明らかにされていません。
今後の展開として、

  1. 東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬のベポタスチンのジェネリックが12月に薬価収載されるのか
  2. ジェネリックが12月に薬価集された場合、いつ発売されるのか
  3. 田辺製薬販売が承認を取得したオーソライズド・ジェネリック(AG)は12月に薬価収載されるのか
  4. AGが12月に薬価集された場合、いつ発売されるのか
  5. 田辺製薬販売はニプロへ売却され、ニプロESファーマとなったので、AGはどこから発売されるのか

が注目です。

2017年10月27日金曜日

ロスバスタチン効能追加

  2017年10月25日付けで沢井製薬ファイザーから家族性高コレステロール血症」の効能・効果、用法・用量の一部変更承認がされたというプレスリリースがされました。
「家族性高コレステロール血症」の効能追加については、“8月15日付医薬品承認情報 ~ロスバスタチン 後編~”で分析しましたが、効能追加の時期が予想よりも早く、また、沢井製薬の他に同じタイミングでファイザー(マイラン)が効能追加してきたことはまったく想定外した。



沢井製薬の効能追加


沢井製薬の効能追加が承認された理由


 通知 ”医政経発第0605001号 「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」”には、
“先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと。”、“先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。”
と記載されています。
 この医政経発第0605001号に則れば、「家族性高コレステロール血症」効能追加の承認を取得するには、1.「家族性高コレステロール血症」の効能・効果を保護する特許5062940を無効にする、又は、2.特許権者から特許5062940のライセンスを受ける
ことが必要と考えられます。

 沢井製薬は、「家族性高コレステロール血症」の効能・効果を保護する特許5062940に対する無効審判を請求していましたが、途中で取下げています。これは、特許権者からライセンスを受けることを条件に、特許5062940に対する無効審判の取下げに合意したと推測されます。
 そのため、2.に該当し、沢井製薬は、「家族性高コレステロール血症」効能追加の承認を取得できたと思われます。



ファイザーの効能追加


 沢井製薬と同日にファイザー(マイラン)が「家族性高コレステロール血症」の効能追加することはまったく想定していませんでした
 それは「家族性高コレステロール血症」の効能・効果を保護する特許5062940に対して無効審判請求をしていたのは沢井製薬のみで、“8月15日付医薬品承認情報 ~ロスバスタチン 前編~”でジェネリック各社の提携関係を分析した結果では、沢井製薬とファイザー(マイラン)はそれぞれ単独であったからです。


ファイザーの効能追加が承認された理由


 特許5062940は現在も有効に維持されているので、1.ではなく2.に該当すると考えられます。
 沢井製薬は、無効審判を請求することで特許権者からライセンスを引出したと推測されますが、ファイザー(マイラン)が特許5062940に対して無効審判を請求した形跡はないので、無効審判以外の方法(例えば、特許権者と直接コンタクトしてライセンス交渉をする等)で特許権者からライセンスを引出したと思われます。
 日本でAG以外のジェネリックが無効審判等を経ることなく、特許権者からライセス受けるというのは、とても珍しいケースだと思います(私の知る限りでは初めてです)。
 また、無効審判等は公開されるので、他社に動向を知られてしまいますが、無効審判等を経ていないファイザー(マイラン)の存在を、沢井製薬が予想することは困難であったでしょう。沢井製薬は自分たち以外に効能追加してくる会社はいなだろうと予想していたのではないでしょうか?




家族性高コレステロール血症」の効能追加の時期


予想していた効能追加の時期


 “8月15日付医薬品承認情報 ~ロスバスタチン 後編~”では、沢井製薬は、“8月15日に承認を取得した後、直ちに「家族性高コレステロール血症」の効能追加の一変を行い、早ければ来年の2月頃には「家族性高コレステロール血症」の効能が承認される”と予想しました。
 しかし、今回、予想よりも4ヶ月も早く効能追加が承認されました。なぜ予想より早く承認されたのでしょうか?



来年2月と予想した理由


 少し古いですが、一変申請の事務処理期間に関する“薬食審査発第0522001号 「医療用医薬品の承認事項一部変更承認申請に係る標準的事務処理期間の取扱いについて」”という通知には、製造方法欄の変更を伴わない一変申請の総審査期間は、中央値を6ヶ月(うち、行政側の事務処理期間を5ヶ月)となるよう努める。また、その状況を踏まえ、さらなる改善策を検討する。”とされています。
 そのため、8月15日の承認から6ヶ月後である来年2月を一変承認の時期と予想していました。


最近の傾向


 ロスバスタチンに似たような一変申請の事例がないか調べてみたところ、モンテルカスト錠が見つかったので、紹介したいと思います。
 モンテルカスト錠は、アレルギー性鼻炎について、物質特許(特許2501385)が2016年2月26日に満了し、気管支喘息については、2016年10月14日に満了しました。
効能・効果特許2501385(物質特許)
気管支喘息10/14/2016
アレルギー性鼻炎2/26/2016
そのため、ジェネリックは2016年8月15日にアレルギー性鼻炎の効能・効果のみで承認されました。ジェネリックの承認後、気管支喘息の効能追加の一変申請がされ、約3ヶ月後の2016年11月9日に一変申請が承認されています。
 2月/8月にジェネリックが承認された後に効能追加の一変申請をする場合、6月/12月の薬価収載に間に合わせるといった柔軟な対応を、医薬品医療機器総合機構と厚生労働省は取っているようです。



最後に


 10月25日時点では、沢井製薬をファイザー(マイラン)以外に「家族性高コレステロール血症」の効能追加の承認を取得したと発表した会社はなく、第一三共エスファのAGを除き、先発製品と同じ効能・効果のジェネリックは沢井製薬とファイザー(マイラン)のみです。他方、「高コレステロール血症」の患者数と比べると「家族性高コレステロール血症」の患者数は多くありません家族性高コレステロール血症」の効能追加が、市場にどのようなインパクトがあるのかとても興味があるところです。
 また、沢井製薬とファイザー(マイラン)の効能追加を受けて、他のジェネリックがどのようなう動きを見せるのにも注目です。







2017年10月16日月曜日

フェブキソスタット

 フェブキソスタットに係る特許3547707の無効審判事件(審判番号:2016-800037)の審決が下りたので、今回はフェブキソスタットについて、分析したいと思います。


1.フェブキソスタットの製品情報


有効成分
一般名: フェブキソスタット
効能・効果
1.痛風、高尿酸血症
2.がん化学療法に伴う高尿酸血症
剤形・規格
フェブリク錠10mg /20mg/40mg (2011年3月薬価収載)
製造販売元
帝人ファーマ


2.フェブキソスタットの基本特許


2-1.基本特許


 特許 2706037はフェブキソスタットの物質特許、特許2725886は痛風/高尿酸血症の医薬用途特許、特許5907396は腫瘍融解症候群の治療薬/予防の医薬用途特許です。
フェブキソスタットの物質特許と痛風/高尿酸血症の医薬用途特許が既に満了し痛風/高尿酸血症の再審査期間が2019年1月20日に終了することから、フェブキソスタットのジェネリックは、2019年2月申請~2020年2月承認~2020年6月薬価収載と考えられます。


2-2.その他の関連特許


 基本特許以外に先発製剤を保護するような特許がないか調べたところ、次のような特許が見つかりました。


 特許 3547707は結晶特許、特許4084309は製剤特許、特許3202607と特許2834971は製剤特許で、いずれも先発製品の製造販売承認に基づく存続期間の延長登録がされていることから、先発製品を保護すると推測されます。




3.無効審判事件(審判番号:2016-800037)


 無効審判(審判番号:2016-800037)の請求人は日本ケミファで、対象特許は結晶特許である特許 3547707です。特許庁は、特許 3547707の請求項のち、一部を無効と判断し、現在、審決取取消訴訟が知的財産高等裁判所に係属しています。
 
 各請求項の内容と無効審判の結果を下の表にまとめてみました。

内容無効審判請求特許庁の判断
請求項1結晶A(X線粉末回折)無効(進歩性なし)
請求項2結晶B(X線粉末回折)×-
請求項3結晶C(X線粉末回折)無効(進歩性なし)
請求項4結晶D(X線粉末回折)×-
請求項5結晶G(X線粉末回折)無効(進歩性なし)
請求項6結晶A(赤外分光分析)無効(進歩性なし)
請求項7結晶B(赤外分光分析)×-
請求項8結晶C(赤外分光分析)無効(進歩性なし)
請求項9結晶D(赤外分光分析)×-
請求項10結晶G(赤外分光分析)無効(進歩性なし)
請求項11非晶質×-
請求項12結晶Aの製法有効
請求項13結晶Bの製法×-
請求項14結晶Cの製法無効(進歩性なし)
請求項15結晶Dの製法×-
請求項16結晶Gの製法有効
請求項17結晶Gの製法有効
請求項18結晶Gの製法有効
請求項19非晶質の製法×-

結晶A、結晶C、結晶G及びこれら結晶の製法に関する請求項に対して無効審判が請求され、結晶A、結晶C、結晶G及び結晶Cの製法が無効と判断されました。




4.日本ケミファが無効審判を請求した狙い


4-1.仮説


 結晶A、結晶C、結晶Gに関する請求項に対して無効審判を請求していることから、日本ケミファは、いずれかの結晶を使用したジェネリックを開発していると考えられます。そこで、次の3つの仮説を立て、検証していきたいと思います。

仮説①:結晶Aを使用したジェネリックを2020年6月に発売
仮説②:結晶Cを使用したジェネリックを2020年6月に発売
仮説③:結晶Gを使用したジェネリックを2020年6月に発売


4-2.仮説の検証


4-2-1.先発製品の結晶形は?


 結晶特許(特許 3547707)は、存続期間の延長登録がされているため、先発製品に含まれるフェブキソスタットは、結晶A、B、C、D、G又は非晶質のいずれかと考えられます。例えば、結晶特許(特許 3547707)の請求項1は、次のような内容です。

“【請求項1】
反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。”

ここで、同様に存続期間の延長登録がされている製剤特許(特許4084309)の請求項を見てみます。

“【請求項1】
反射角度2θで表して6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、及び36.70°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のA晶、賦形剤、結合剤、及び崩壊剤を含有する、痛風または高尿酸血症治療用の錠剤であって、
該A晶の平均粒子径が12.9μm以上26.2μm以下であり、
該賦形剤が、乳糖、および部分アルファー化デンプンから選ばれる1種以上であり、
該結合剤が、ヒドロキシプロピルセルロースである錠剤。”
 
結晶特許(特許 3547707)と製剤特許(特許4084309)の請求項1を比較してみると、どちらも同じ粉末X線回折パターンを持つ結晶形(A結晶)を含んでいることが分かります。
製剤特許(特許4084309)の独立請求項は請求項1のみで、結晶A以外の結晶形は記載されていないため、先発製品に含まれるフェブキソスタットは結晶Aであると考えられます。



4-2-2.特許3547707と特許4084309から分かること


 特許3547707と特許4084309の明細書を確認したところ、結晶A、B、C、D、Gと非晶質について、次のようなことが分かりました。

特許3547707
結晶の保存安定性その他の特徴
A結晶安定-
B結晶結晶転移あり-
C結晶安定工業的製造が
難しい
D結晶結晶転移あり-
G結晶安定加熱減圧乾燥で
B結晶へ転移
非晶質結晶転移あり-


特許4084309
溶解速度製剤製造中の
結晶転移
製剤保存中の
結晶転移
製剤の均一性製剤製造直後の
溶出製
製剤保存後の
溶出製
A結晶
非晶質>A>B>D>G>C
結晶転移なし結晶転移なし変化なし
B結晶結晶転移あり結晶転移あり遅延
C結晶結晶転移あり結晶転移あり遅延
D結晶結晶転移あり結晶転移あり遅延
G結晶結晶転移あり---
非晶質-----


4-2-3.結晶Aを採用した理由


 特許3547707と特許4084309の明細書から、結晶Aは他の結晶形よりも製剤中で安定あり、溶出性もいいことが分かります。そのため、先発製品は結晶Aを採用したと推測されます。



4-2-4.日本ケミファの特許出願


 特許出願から日本ケミファが使用しようとしている結晶形を推測できないか試みるために、日本ケミファの出願を検索したところ、次の3件の特許出願がヒットしてきました。これらの特許出願の内容を確認したころ、いずれも結晶Cに関する出願でした。

公報番号発明の名称請求項1出願日
特開2017-1286162-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸の小型化結晶、その微粉化物及びこれらを含有する固形製剤長径の長さが100μm以下の結晶のみからなり、かつA晶、B晶、D晶、G晶、及び/又は非晶質体の含有量が7重量%以下である2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル] -4-メチルチアゾール-5-カルボン酸のC晶の微粉化物。5/8/2017
特再公表2015-635612-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸の小型化結晶、その微粉化物及びこれらを含有する固形製剤長径の長さが実質的に約200μm以下の結晶のみからなる2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸の小型化C晶10/22/2014
WO16-1712542-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸の結晶、その製造方法、及びそれらの利用2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸のC晶及び2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸の非晶質体を含む混合物を常温より高い温度に加熱して得られる2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸のC晶4/22/2016

また、各出願と特許3547707に対する無効審判を時系列に並べてみると、無効審判請求前後で一貫して結晶Cに関する出願をしていることが分かります。




これらから日本ケミファは結晶Cを使用としようとしていることがうかがえます。



4-2-5.日本ケミファの特許出願から分かること


 日本ケミファの特許出願の明細書を確認し、各出願の主な発明とそれらの効果をまとめてみました。

公報番号主な発明発明の効果
特開2017-128616フェブキソスタットのC晶の微粉化物
高い溶出性と高い安定性を有し、かつ、溶出特性のばらつきが少ない固形製剤を製造できる
特再公表2015-63561フェブキソスタットの小型化C晶
WO16-171254フェブキソスタットのC晶と非晶質を含む混合物を常温より高い温度に加熱して得られるフェブキソスタットのC晶高純度なフェブキソスタットのC晶を製造できる

これらから日本ケミファは高純度で小型化された結晶Cを使用することで、高い溶出性・安定性を有するフェブキソスタット製剤を開発しようと試みていることがうかがえます。


4-2-6.仮説①の検証


 結晶形は、製剤の安定性や溶出性に影響を与えるので、先発製品と同じ結晶を使用するために無効審判を請求するということはあり得ます。
ですが、日本ケミファの特許出願は結晶Cの使用を示唆しているという点で一致していません。また、結晶Aを含む製剤に関する製剤特許(特許4084309)に対しては、無効審判を請求しておらず、結晶Aに関する特許出願がないことも不自然です。


4-2-7.仮説②の検証


 日本ケミファの特許出願は結晶Cの使用を示唆しているため、仮説②は有力な説のように見えます。
ですが、結晶を使用したいのであれば、C結晶に関する請求項のみに無効審判を請求すればいいはずです。わざわざA結晶とG結晶に関する請求項にも無効審判を請求する必要はありません。
更に、先発製品は結晶Aを使用し、先発製品の製造販売承認に基づき、結晶特許(特許 3547707)の存続期間が、2019/6/18から2024/6/18まで延長されています。そうすると、フェブキソスタットの結晶Aでの製造販売承認を理由として延長された特許権の効力は、結晶Cには及ばないと考えるのが自然です。つまり、結晶Cを使用するため、無効審判を請求する必要はないわけです。


4-2-8.仮説③の検証


 製剤特許(特許4084309)では、結晶Gの製剤は製剤の均一性が悪かったとされていますので、結晶Aや結晶Cを使用しようとするのが自然です。また、仮説②の検証と同様に、結晶Gを使用するため、無効審判を請求する必要はありません。


4-3.新たな仮説


 仮説①②③のいずれでもクリアーな説明ができず、疑問が残ります。そこで、新たな仮説を立ててみます。

仮説④:
結晶Cを使用してジェネリックを開発しているが、製造中/保存中の結晶転移により、結晶Aが混入し、結晶特許(特許 3547707)に基づく権利行使のリスクがある
仮説⑤:
とりあえず安定な結晶A、C、Gに無効審判をし、結果次第で使用する結晶形を選択する

仮説④と⑤であれば、仮説①~③よりも日本ケミファの無効審判と特許出願との関係を自然に説明できるのではないでしょうか。


5.最後に


 今回は、仮説①~⑤を立て、日本ケミファの無効審判の狙いを分析してみました。今後、日本ケミファがジェネリックを発売し、侵害訴訟に発展すれば、実際に日本ケミファが使用した結晶形等が判明してくると思います。今後の動向に注目していきたいと思います。


2017年10月13日金曜日

ピタバスタチン

 2017年10月11日付けで興和から「高コレステロール血症治療剤「リバロ」に対する特許権侵害訴訟の勝訴判決について」というプレスリリースがされたので、今回はピタバスタチンについて分析します。



ピタバスタチンの製品情報

有効成分
一般名:ピタバスタチン カルシウム
効能・効果
高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症
剤形・規格
リバロ錠1mg(2003年9月薬価収載)
リバロ錠2mg(2003年9月薬価収載)
リバロ錠4mg(2012年6月薬価収載)
リバロOD錠1mg(2013年6月薬価収載)
リバロOD錠2mg(2013年6月薬価収載)
リバロOD錠4mg(2013年12月薬価収載)
製造販売元
製造販売元/興和, 販売元/興和創薬, 提携/日産化学工業




興和のプレスリリース


 興和のプレスリリースによれば、
“東和薬品に対し、興和が保有する高コレステロール血症治療剤「リバロ錠」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」の医薬特許(特許第5190159号)の侵害を理由として、同社が製造販売する「リバロ」の後発医薬品である『ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」』の製造販売の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提起していましたが、2017年9月29日付で、興和の請求を全面的に認める判決が言い渡された”
とのことです。




対象特許と対象製品


対象特許


 興和のレスリリースには、対象特許として特許5190159が記載されていました。特許5190159の内容は、
“【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。”
“【請求項6】
  次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤。”
です。
 リバロOD錠にはクロスポビドンが含まれているため、特許5190159は先発製品のOD錠を保護する製剤特許と考えられます。


対象製品


 興和のレスリリースには、対象製品としてピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」が記載されていました。
 ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」は、2014年8月に承認され、同年12月に薬価収載されています。また、ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の添付文書に記載されている添加剤は、
“D-マンニトール、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタケイ酸アルミン酸Mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、タルク、黄色三二酸化鉄、酸化チタン、アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物)、香料、ステアリン酸Mg、その他3成分”
です。


対象特許と対象製品の対比


 特許5190159のポイントは、①ピタバスタチンを含むこと、②カルメロース/クロスポビドン/結晶セルロースのうち、少なくとも1つを含むこと、③水分含量が2.9質量%以下の固形製剤であることです。
 ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の添付文書には、カルメロース/クロスポビドン/結晶セルロースは記載されていませんが、“その他3成分”の中に含まれていると考えられます。また、ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の水分含量は、添付文書等から把握することはできませんが、侵害が認められたということは、2.9質量%以下と考えられます。



その他のジェネリックは?


 東和薬品以外の会社からもピタバスタチンのジェネリックが販売されています。その他のジェネリックに使用されている添加剤をまとめてみました。

OD錠
販売名カルメロース/クロスポビドン/結晶セルロースの有無
リバロOD錠1mg
リバロOD錠2mg
リバロOD錠4mg
クロスポビドン
ピタバスタチンカルシウムOD錠1mg「日医工」
ピタバスタチンカルシウムOD錠2mg「日医工」
ピタバスタチンカルシウムOD錠4mg「日医工」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「杏林」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「杏林」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「杏林」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「サワイ」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「サワイ」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「サワイ」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「トーワ」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「トーワ」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「トーワ」
? (その他3成分)
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「ファイザー」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「ファイザー」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「ファイザー」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「明治」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「明治」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「明治」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「JG」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「JG」
ピタバスタチンCa・OD錠4mg「JG」
ピタバスタチンCa・OD錠1mg「MEEK」
ピタバスタチンCa・OD錠2mg「MEEK」

普通錠
販売名カルメロース/クロスポビドン/結晶セルロースの有無
リバロ錠1mg
リバロ錠2mg
リバロ錠4mg
ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」
ピタバスタチンカルシウム錠2mg「テバ」
ピタバスタチンカルシウム錠4mg「テバ」
? (その他2成分)
ピタバスタチンカルシウム錠1mg「日医工」
ピタバスタチンカルシウム錠2mg「日医工」
ピタバスタチンカルシウム錠4mg「日医工」
ピタバスタチンカルシウム錠1mg「モチダ」
ピタバスタチンカルシウム錠2mg「モチダ」
ピタバスタチンカルシウム錠4mg「モチダ」
? (その他1成分)
ピタバスタチンカルシウム錠1mg「KO」
ピタバスタチンカルシウム錠2mg「KO」
ピタバスタチンカルシウム錠4mg「KO」
結晶セルロース/クロスポビドン
ピタバスタチンカルシウム錠1mg「ZE」
ピタバスタチンカルシウム錠2mg「ZE」
ピタバスタチンカルシウム錠4mg「ZE」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「アメル」
ピタバスタチンCa錠2mg「アメル」
ピタバスタチンCa錠4mg「アメル」
ピタバスタチンCa錠1mg「科研」
ピタバスタチンCa錠2mg「科研」
ピタバスタチンCa錠4mg「科研」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「杏林」
ピタバスタチンCa錠2mg「杏林」
ピタバスタチンCa錠4mg「杏林」
ピタバスタチンCa錠1mg「ケミファ」
ピタバスタチンCa錠2mg「ケミファ」
ピタバスタチンCa錠4mg「ケミファ」
ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」
ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」
ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」
ピタバスタチンCa錠1mg「サンド」
ピタバスタチンCa錠2mg「サンド」
ピタバスタチンCa錠4mg「サンド」
クロスポビドン
ピタバスタチンCa錠1mg「三和」
ピタバスタチンCa錠2mg「三和」
ピタバスタチンCa錠4mg「三和」
ピタバスタチンCa錠1mg「タカタ」
ピタバスタチンCa錠2mg「タカタ」
ピタバスタチンCa錠4mg「タカタ」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「ツルハラ」
ピタバスタチンCa錠2mg「ツルハラ」
ピタバスタチンCa錠4mg「ツルハラ」
ピタバスタチンCa錠1mg「トーワ」
ピタバスタチンCa錠2mg「トーワ」
ピタバスタチンCa錠4mg「トーワ」
ピタバスタチンCa錠1mg「日新」
ピタバスタチンCa錠2mg「日新」
ピタバスタチンCa錠4mg「日新」
ピタバスタチンCa錠1mg「ファイザー」
ピタバスタチンCa錠2mg「ファイザー」
ピタバスタチンCa錠4mg「ファイザー」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「明治」
ピタバスタチンCa錠2mg「明治」
ピタバスタチンCa錠4mg「明治」
ピタバスタチンCa錠1mg「DK」
ピタバスタチンCa錠2mg「DK」
ピタバスタチンCa錠4mg「DK」
ピタバスタチンCa錠1mg「EE」
ピタバスタチンCa錠2mg「EE」
ピタバスタチンCa錠4mg「EE」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「FFP」
ピタバスタチンCa錠2mg「FFP」
ピタバスタチンCa錠4mg「FFP」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「JG」
/ピタバスタチンCa錠4mg「JG」
ピタバスタチンCa錠1mg「MEEK」
ピタバスタチンCa錠2mg「MEEK」
ピタバスタチンCa錠4mg「MEEK」
ピタバスタチンCa錠1mg「NP」
ピタバスタチンCa錠2mg「NP」
ピタバスタチンCa錠4mg「NP」
? (その他1成分)
ピタバスタチンCa錠1mg「TCK」
ピタバスタチンCa錠2mg「TCK」
ピタバスタチンCa錠4mg「TCK」
ピタバスタチンCa錠1mg「YD」
ピタバスタチンCa錠2mg「YD」
ピタバスタチンCa錠4mg「YD」
ピタバスタチンCa錠1mg「YD」
ピタバスタチンCa錠2mg「YD」
ピタバスタチンCa錠4mg「YD」

 東和薬品以外の会社のOD錠のジェネリックは、カルメロース/クロスポビドン/結晶セルロースを含んでいませんでした。
 普通錠のジェネリックでは、結晶セルロース/クロスポビドンを含む製品や添付文書に“その他○成分”と記載された製品がありましたが、今のところ、普通錠のジェネリックを対象とした訴訟は確認されていません



最後に


 東和薬品のピタバスタチンOD 錠は、 4mg以外に1mgと2mgの規格があります。4mg以外の規格が訴訟の対象となっていないか気になります。また、東和薬品は特許5190159に対して無効審判請求していないため、訴訟の中でどういう主張をしていたのかも気になるところです。
 いずれ裁判所のHPに判決文が掲載されると思うので、掲載後、内容を見てみたいと思います。