2018年2月2日金曜日

2018年2月承認予想~注目品目:ナルフラフィン~

 今回は2018年2月に承認されると予想されるナルフラフィンを深堀してみたいと思います。


ナルフラフィンのジェネリックを開発している会社 


 特許出願の状況からナルフラフィンのジェネリックを開発している会社を予想してみます。
 今回は、J-Plat-Patの“特許・実用新案テキスト検索”とWIPOのPATENTSCOPを使用し、[要約+請求の範囲:モルヒナン誘導体+ナルフラフィン]+[発明の名称:ルヒナン誘導体+ナルフラフィン]というキーワード検索を行いました。
 ヒットした出願から、ナルフラフィンのジェネリックに関すると思われる出願を抽出したところ、以下のような結果が得られました。

No.公報番号発明の名称出願人
1WO16-163403経口フィルム製剤ニプロ
2特開2017-137302ナルフラフィン含有口腔内崩壊錠沢井製
3特許6082503ソフトカプセル剤東海カプセル,
伊藤忠ケミカルフロンティア
4特許61313794,5-エポキシモルヒナン誘導体含有製剤森下仁丹
5特開2017-39694ナルフラフィン塩酸塩含有カプセル製剤富士カプセル
6特許5918895ナルフラフィン塩酸塩含有カプセル製剤富士カプセル
7特許5918894ナルフラフィン塩酸塩含有カプセル製剤富士カプセル
8特開2015-205918シームレスカプセル充填用組成物富士カプセル
9特開2016-155794ナルフラフィン塩酸塩及びフィチン酸又はその塩を含有するカプセル製剤富士カプセル
10特開2015-172043ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤富士カプセル
11特開2015-166331ナルフラフィンの結晶およびその製造方法リョートーファイン株
12特許6247118カプセル充填組成物東海カプセル,
伊藤忠ケミカルフロンティア
13特許5788256シームレスカプセル充填用組成物富士カプセル

 各出願の内容から、東海カプセル・伊藤忠ケミカルフロンティア、富士カプセルおよび森下仁丹はカプセル製剤を、ニプロはフィルム製剤を、沢井製薬はOD錠を開発していると推測されます。 


基本特許の延長 


 ナルフラフィンの基本特許は以下の通りです。
効能・効果再審査期間特許2525552
-物質
特許3531170
-用途
軟カプセル
血液透析患者におけるそう痒症1/20/20171/22/201811/21/2017
慢性肝疾患患者におけるそう痒症12/25/20181/22/201311/21/2022
腹膜透析患者におけるそう痒症の改善1/20/20171/22/2013延長期間不明
OD錠
血液透析患者におけるそう痒症1/20/20171/22/20182022/11/21
(審査中)
慢性肝疾患患者におけるそう痒症12/25/20181/22/20132022/11/21
(審査中)
腹膜透析患者におけるそう痒症の改善1/20/20171/22/2013延長期間不明
(審査中)
 ナルフラフィンの発売当時の剤形は、軟カプセル(レミッチカプセル/ノピコールカプセル)でしたが、2017年3月にOD錠が承認(レミッチOD錠)され、5月に薬価収載されました。 
 ナルフラフィンOD錠(レミッチOD錠)の承認に基づき、特許3531170に対する新たな延長登録出願され、現在、審査中(特願2017-700154)であるため、軟カプセルとOD錠とでは特許満了日が異なるという状況が発生する可能性があります。 



OD錠の承認に基づく延長登録出願は登録される? 


 特許・実用新案審査基準には、延長登録出願の審査について、以下のように記載されています。 

a 基本的な考え方について 

 延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品類又は農薬としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較し、先行処分の対象となった医薬品類の製造販売又は農薬の製造・輸入が、本件処分の対象となった医薬品類の製造販売又は農薬の製造・輸入を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、審査官は、拒絶理由を通知する。“ 

“c 実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について 

 本件処分と先行処分がされている場合において、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品類又は農薬としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較する。例えば、「実質的同一性に直接関わることとなる審査事項」として、以下のものが挙げられる。 

 ・政令で定める処分が医薬品の製造販売の承認であって、延長登録出願に係る特許発明が物の発明の場合は、審査事項は「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」を含む。” 

 “成分、分量”には、添加剤、賦形剤等の有効成分以外の成分も含まれるため、 OD錠の承認に基づく延長登録出願は登録され得ると考えられます。実際、ロスバスタチン(クレストール)の用途に係る特許(特許5062940)やゾニサミド(トレリーフ)の用途に係る特許(特許3364481)のように、OD錠の承認に基づく延長登録出願(特願2016-700067, 特願2014-700230)が登録された例も出てきています。 



OD錠の承認に基づいて延長された特許権の効力の及ぶ範囲は? 


延長された特許権の効力の及ぶ範囲 


 オキサリプラチン事件(平成28年(ネ)第10046号)において、延長登録された特許権の効力範囲についての考え方が示され、ポイントは以下の通りです。 

 ❝延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及ぶ。❞ 

  ❝政令処分で特定された「物」(医薬品)と、対象製品とで異なる部分がある場合であっても、「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないとき」には、その製品は、政令処分の対象となった物と「実質同一」なものに含まれ、延長された特許権の効力範囲に属する。❞ 

 ❝「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべき。❞

 ❝次の4つの場合、政令処分で特定された「物」(医薬品)と対象製品は「実質同一」なものと判断される。 

  1. 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合 
  2. 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき 
  3. 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合 
  4. 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法,用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合

  オキサリプラチン事件は、上記②の場合について、具体的な判断がされています。 


ナルフラフィンの場合 


 オキサリプラチン事件と異なり、ナルフラフィンOD錠(レミッチOD錠)の承認に基づき、延長登録出願されている特許3531170は、上記①の場合に該当すると考えられます。①の場合について判断された例はないため、特許3531170の延長された特許権の効力の範囲は依然として不明確です。 
 具体的には、 
  1. 延長された特許3531170の効力が、沢井製薬が開発しているOD錠に及ぶのか? 
  2. 延長された特許3531170の効力が、ニプロが開発しているフィルムに及ぶのか? 
という点が不明確です。 

 上記①の場合に当てはめて判断すると、レミッチOD錠に含まれる添加剤と沢井製薬のOD錠やニプロのフィルムに含まれる添加剤との違いが、レミッチOD錠の製造販売承認申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等である場合、延長された特許3531170の効力は、沢井井製薬のOD錠やニプロのフィルムにも及ぶということになると思われます。 
 一方、レミッチOD錠に含まれる添加剤と沢井井製薬のOD錠やニプロのフィルムに含まれる添加剤との違いが、レミッチOD錠の製造販売承認申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等でない場合、延長された特許3531170の効力は、沢井製薬のOD錠やニプロのフィルムにも及ばないということになると思われます。 



最後に 


 今後、以下の点が注目されます。 

  1. 沢井のOD錠とニプロのフィルムが2月に承認されるか? 
  2. 沢井のOD錠とニプロのフィルムが2月に承認された場合、6月に薬価収載されるか? 
  3. 沢井のOD錠とニプロのフィルムが2月に承認された場合、6月に薬価収載された場合、係争に発展するか? 
  4. 係争に発展した場合、延長された特許権の効力について、どういった判断がされるか? 

 もし係争に発展した場合、延長された特許権の効力に関する重要な判例となるはずです。

 

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